免疫の発達とTh-1機能・Th-2機能
現在、小児の免疫発達はTh-1機能とTh-2機能の関係で研究・論議されています。免疫発達の過程では、Th-1・Th-2バランスがとれた状態で発達していくことが重要です。
Th-1は細胞性免疫・遅延型アレルギー・かくれ型アレルギーの反応
Th-2は液性免疫・即時型および遅発型アレルギー・はっきり型アレルギーを起こします。Th-1とTh-2の反応はお互いを抑制し合いながら働いています。
哺乳動物は妊娠中に細胞性免疫を抑えて胎児を守っている
半分の遺伝子が父親から由来しているため、母親にとって胎児は異物です。異物である胎児を長期間体内に存在させるための免疫機構を哺乳動物は進化の過程で獲得しました。哺乳動物は妊娠中に母親の免疫から胎児を保護するため、細胞性免疫（Th-1機能）を低下させます。卵を産む鳥類や爬虫類、両生類、魚などは母親の体の外で胎児が育つため母親の免疫を抑える必要はありません。哺乳動物の母親は妊娠中に細胞性免疫（Th-1を機能）を抑えて胎児を守っています。さらに、胎児と母親の接触面（胎盤）ではTh-2機能を活発に働かせてTh-1機能を抑えています。産まれてきた子どもは、Th-1低下、Th-2優位の状態で産まれます（1、２）。生後、正常な腸内細菌叢など常在細菌叢からの刺激でTh-1が発達、Th-2が抑制されていき、バランスがとれた免疫が発達していきます。
小児期早期の免疫発達・アレルギー性疾患への進展
子どもたちは生後、体内から出て、外部環境にさらされると、さまざまな抗原に暴露され、常在細菌叢の影響を受けて免疫系が発達します。正常発達では外部環境・体内環境に応じてバランスを変化させる能力が獲得されると思われます。
アレルギー児は、Th-1免疫の発達が遅れるといわれています（3）。
化学物質や食品中の性ホルモンが影響するとアレルギー反応の調整ができなくなります。
過剰な抗原刺激によってTh-2が亢進し、Th-2を介したさまざまなアレルギー性疾患を引き起こします。
しかし、Th-2亢進だけではなく、Th-1が過剰に亢進し、Th-1優位のアレルギー性疾患を起こす場合も少数派ながら存在します。また、牛乳などTh-1作用が主な原因となる抗原も存在します。
胎児期から小児期にかけての免疫発達に、多種の化学物質が影響していると思われます。
Holtらは（3）、新生児の臍帯血、小児の末梢血中単核球のダニ抗原に対する感作状態を調べています。アレルギー発症のない小児では、生下時Th-1低下、Th-2優位で生まれ、生後、Th-1が発達し、Th-2が抑制されます。しかし、アレルギー児では、生後のTh-1の発達は遅れ、生直後に低かったTh-2が徐々に亢進していきます。この反応の違いが起こる理由として、遺伝子の違いが疑われていますが、胎児期における化学物質の影響も考えられます。
この結果をみても分かるように、アレルギー児もアレルギーを起こさない子どもでも、臍帯血中のリンパ球はすでにダニなどの環境抗原や卵などの食物抗原に反応します。つまり、胎児期にすでにアレルギーの準備状態をつくって産まれてきます。
生後にTh-1を低下させ、Th-2を亢進させる物質が、現在多くの子どもたちが悩まされているIgEが高くなるアレルギー性疾患を引き起こしている可能性があります。
胎児期に作用させると生後のTh-1機能が低下する化学物質にはダイオキシンや有機塩素系殺虫剤（高濃度のリンデン）が報告されています。生後には、ダイオキシン、有機塩素系殺虫剤（長期間のリンデン）、トリブチルスズスズなどがあります。また、Th-2を亢進させる化学物質にはビスフェノールA（プラスチック原料）、トリブチルスズ（貝殻付着防止のために船底や魚網に塗布され、魚貝類に残留がある）などがあります（4、5、6、7、8、9）。
男性ホルモンや女性ホルモンの作用は正常な免疫発達過程で思春期に影響すれば、アレルギーをコントロールしアレルギー性疾患を起こしにくい健康な免疫機能をつくりだすことに役立っています。しかし、環境中に存在する性ホルモン様の作用を有する化学物質は、胎児期〜小児期〜成人を通して、性ホルモンによる正常な免疫発達をかく乱している可能性があります。
その他、下の表のような物質が、免疫の発達を障害することが疑われています（10）。
文献：
１）Lin H, Mosmann TR, Guilbert L, Tuntipopipat S, Wegmann TG.: Synthesis of T helper 2-type cytokines at the maternal-fetal interface. J Immunol 151:4562-73, 1993
２）Prescott SL, Macaubas C, Holt BJ, Smallacombe TB, Loh R, Sly PD, Holt PG.: Transplacental priming of the human immune system to environmental allergens: universal skewing of initial T cell responses toward the Th2 cytokine profile. J Immunol 160:4730-7, 1998
3）Susan L Prescott, Claudia Macaubas, Troy Smallacombe, Barbara J Holt, Peter D Sly, Patrick G Holt: Development of allergen-specific T-cell memory in atopic and normal children, LANCET353:196-200, 1999
4）Bradly C. Gehrs, Ralph J. Smialowicz: Persistent suppression of delayed-type hypersensitivity in adult F344 rats after perinatal exposure to 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin. Toxicology134: 79-88, 1999
5）Peter S. Ross, Rik L. de Swart et al: Impaired cellular immune response in rats exposed perinatally to Baltic Sea herring oil or 2,3,7,8-TCDD. Arch Toxicology17: 563-574, 1997
6）Fang Fan, Daniel Wierda, Karl K. Rozman: Effects of 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin on humonal and cell-mediated immunity in Sprague-Dawley rats. Toxicology 106: 221-228, 1996
7）Tomohiro Ito et al: Mechanisms for 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)-Induced Suppression of Antigen-Specific Antibody Production inhibition of Th2 Cell-Derived Cytokine Production in the Primary Immune Reaction?. The 4th Annual Meeting of japan Society of Endocrine Disrupters Reserch Abstracts:327, 2001
8）Das SN, Paul BN, Saxena AK, Ray PK.: Effect of in utero exposure to hexachlorocyclohexane on the developing immune system of mice. Immunopharmacol Immunotoxicol 12:293-310 , 1990
9）Meera P, Rao PR, Shanker R, Tripathi O. : Immunomodulatory effects of gamma-HCH (Lindane) in mice. Immunopharmacol Immunotoxicol 14:261-82, 1992
10）Holladay SD, Smialowicz RJ.: Development of the murine and human immune system: differential effects of immunotoxicants depend on time of exposure. Environ Health Perspect 108:463-473､2000
